◯臨床上の心臓反射
鼻腔、咽頭、喉頭の粘膜刺激による心臓反射は強烈で、長く刺激するとついには心臓を歇止してしまうほどであるがコカインであらかじめそこを麻痺させておくと何の反射的影響も受けない。だから麻酔剤吸入に際してあらかじめ上気道、とくに鼻腔にその処置を施しておくと心臓に及ぼす危険を予防することができる。
胃粘膜の刺激で心臓に反射作用が及ぶことが発見されて以来、胃に起因する頓死があるのではないだろうかと気になりはじめた。ためしに人為的に胃を拡張させると、心臓は圧迫されて不快をおぼえ、とりわけ心臓に疾病のあるものはわずかな圧迫にもその位置を変え、拍動の反射的歇止をおこすことがある。われわれはしばしば胃腸の鼓張症においてその顕著な例をみることがある。
肛門の刺激は心臓に反射作用をおこす。老人は排便時にいきんで腹圧を高めることで脳の血管を破裂させやすくなる。しかし逆に心臓の衰弱したものは、いきむことで簡単に虚脱症状、つまり脳貧血をおこし、トイレで卒倒する者をみかける。いっぽう健康な者でも腹壁が緊張した結果、軽く心臓反射をおこして左心室からの血液の流出が減少し、動脈の血液量が減少して静脈が鬱血する。
湿性心嚢炎はエブラム氏の心臓反射現象をおこすことができない。これに反して心臓肥大症では反射が亢進する。
〔予後〕心臓病の長引いた患者の予後を確定するには、エブラム氏の心臓反射を試みて、反射現象をおこさなければ非常に予後不良である。
心臓喘息と気管支喘息を比較すると、心臓喘息では呼気も吸気も困難であるが、気管支喘息であれば呼気だけに困難を感じている。そうはいっても臨床上その鑑別に苦しむときは、C７を打療してみること。心臓性であればすみやかに鎮静し、呼吸困難が一掃される。