腰筋が収縮すると骨盤は前傾するのか後傾するのか?
という問題が治療家間で混乱していますが、実際にはどちらもあり得ます。あり得るというか、程度しだいで変わってきます。
こういった誤解は大腰筋が関節を一つ以上またいでいることに起因します。
たとえば胸鎖乳突筋なども多関節筋なのでイメージしてもらえばわかるかと思うんですが、立位で上を向くときも、臥位で下を向くときも収縮します。
動作時の姿勢によってどちらにも作用するので、一概にどっちと言い切ってしまうわけにいかない筋肉なのです。
だからこそ面白く重要なわけですが笑
ちょうど先日これについて講義しているタイミングで『ダンスの解剖・運動学 大事典』という本にヒントとなる項をみつけたのでここにメモっておきます。
腸腰筋の主な働きは股関節の屈曲と考えられているが、身体の位置によっては脊柱の運動を起こす。脊柱は屈曲位にあるときは、腸腰筋の力線は通常、腰椎椎間関節の回旋軸の前方にあるので、腰椎が屈曲しやすくなる。腸腰筋は、ロープ登り、グラハムテクニックのコントラクション、腰椎を屈曲させて脚を前方にスウィング(股関節の屈曲)させるといった床で行う多様なダンスのをー民具アップで用いられる。しかし、腰椎が伸展しているときは多くの場合(ふつうに立っている場合)、腸腰筋の筋線維の多くの力線が腰椎椎間関節の後方を走行するので、腰椎を伸展(過伸展)させる傾向がある。通常は腰椎を屈曲させる腸腰筋が腰椎を伸展させる。このような見かけうえの役割の逆転を大腰筋のパラドックスpsoas paradoxという。腰椎の過伸展は、直立位で腰椎彎曲を保持する場合は望ましいかもしれない。しかし、ダンスで非支持脚(ジェスチャーレッグ)を前方に上げる表現的動作や腹筋運動での前脚挙上では、腰椎の過伸展が望ましくない場合が多い。こうした場合は、腸腰筋の近位付着部の安定のために腹筋を強く収縮させたり、望ましくない骨盤前傾や脊柱の過伸展を防止したりすることが必要である。