第1例
西◯某 61歳 東京
生まれてこのかた、これといった疾患に悩まされたこともなく強健で、酒もたしなまず、しかも梅毒の徴候なし。しかし20年近く喘息に苦しみ、、今年三月頃から、少し運動しただけで背部から胸部にわたって緊引性の疼痛を感じている。咳嗽は痙攣性であたかも疫咳のようである。
現症状
頚部右側の静脈および胸部の上半分、とくに右側において表在静脈がいちじるしく怒張し、発作が増悪すると怒張はいっそうひどくなって、窒息しそうだと訴える。
打診では、胸部より左右に濁音が聞き取れる部分が広く約7cmにわたり、望診では胸壁が拍動しているのがわかる。聴診では、T3、4間を圧迫しても喘息性の雑音は消えなかったので、動脈瘤の診断のためにC7の打療法を10分間おこなってみた。すると、胸部の苦悶および痙攣性咳嗽は忘れてしまったかの陽に消失し、頚部静脈の怒張も治まって、むしろ快感だというほどまでに回復した。治療継続2週めで自覚症状は完全に消失、自身の仕事に復帰することができた。それ以来ときどき軽い咳嗽や咽喉の異物感を訴え来院し、だいたいいつも打療を5分間受けると異常感は消失する。しかし頚部や胸部の静脈の怒張は二度と患者を苦しめることはなかった。
大正3年10月