第2類 気管
第一 気管支喘息
気管支括約筋に分布する迷走神経を反射的に刺激することでおこる。
イ:鼻腔からくるものは、、、鼻粘膜を刺激すると喘息の徴候、つまり呼吸困難や胸部圧迫を感じる。綿花でしっかり鼻腔を閉じてしまうと、そうなる。そして左右どちらに原因があるかを調べるため、片側ずつ試験すること。このようにしてどちらに原因があるかをみつけ、そこに治療を加えることで治癒するものである。
ロ:咽頭や咽喉に原因があることもある。これはゾンデ(消息子)によってみつけることができる。
ハ:気管支内にある気管支カタルに原因があるときは、喘息なのか気管支カタルなのか鑑別が難しいが、患者に亜硝酸アミールを吸引させると、ほんとうの気管支カタルであれば変化はないが、痙攣性のものであれば一時的に治まるものである。また、T3、4間側圧法によって同じようにラ音が消失する。これは迷走神経の張力減弱による。
二:胃性、つまり消化不良から来るものは吐剤を与え嘔吐させてしまえば治ることがある。また、町内の寄生虫に原因することもある。
ホ:男女とも、生殖器に原因することもある。また、腎臓、心臓、間歇熱、ヒステリー、神経衰弱などによることもある。
ヘ:喘息はまた精神的暗示によっておこることがある。しかも、同じようにこれによって治ることもある。たとえば花の香りで喘息をおこす患者に対して造花をもってきて症状を出させた例や、X線診断的に用いて治療した例がある。
反射的にくる徴候は、その原因を治療すれば治癒するものであり、精密に原因を探究して治療法を選ぶこと。
{原因]喘息の原因説
一、気管支筋の痙攣
二、気管支筋の麻痺(WALSHE)
三、延髄球ニューローシス(呼吸中枢の異常反射刺激)(SEE)
四、横隔膜の痙攣(WINTRICH)
五、吸気筋の痙攣(BUDD)
六、細菌性気管支炎(BERKART)
七、気管支粘膜の充血(CLARK)
八、喘息患者の喀痰中にみられる結晶が、迷走神経の末梢を刺激して気管筋の痙攣を起こす(LEYDEN)
九、気管粘膜の腫脹(喉頭鏡で観察できる)(STOERK)
十、進出性気管支炎で呼吸困難をきたしているもの(CUBCHMAN)
十一、肺のテンカン(TROUSSEAN)
十二、近年、キングスコートは、拡張した心臓が慢性喘息を引き起こしやすく、とくに夜間に発作をおこす理由は拡張した心臓が迷走神経を博打するからであると腫脹した。
十三、ヘーグは血中の尿酸が迷走神経を刺激するものであろうと説いている。
以上、列記した諸説は喘息発作中のX線試験において、横隔膜痙攣説や、心臓拡張の迷走神経圧迫説などはいずれも証明されなかった。
なお病理解剖上、適当な原因および変化を発見することができないので、神経性の反射作用であろうと見なされているものが多いようである。
臨床的所見によれば、気管支輪状筋繊維の痙攣であり、弱い縦走筋繊維麻痺状態のために空気を呼出することができずに発現する。
オーフレヒットによると小気管支には強い輪状筋繊維と、弱い縦走筋層を有し、臨床上の所見は後にデキソンおよびブローデーの生理研究により、迷走神経が気管支を収縮または拡張する神経繊維を有することが確認された。しかし肺の拡張反射はこれらの両筋繊維の働きを証明してあまりある。
喘息患者においては肺の収縮反射を起こさせることは難しい。そこでこの反射作用を強くする療法は喘息発作をなくすうえに、発作予防の基礎である。
健康成人では次の方法によって肺の収縮反射を引き起こせことができる。
一、胸部に強い叩打を加えること(局所的に限局する)。
二、亜硝酸アミールの吸入(あらかじめ鼻粘膜をコカインで麻痺させてお九個とが必要)。吸入後、肺に濁音が聴かれるようになると収縮した証であり、最も著しい変化は肩甲間部である。
三、各種の鼻腔噴霧薬にはアトロピンやコカインなどを含有するものがある。これらは一時的に発作を鎮めるものであって全治させるものではない。これらの噴霧薬の吸入によって症候は緩解するが、これに比例して肺に濁音が聴こえ始めるようになる。それは鼻粘膜を通じて肺に収縮反射を起こさせてしまうからである。
四、C4、C5の叩打により肺の収縮反射を起こす。
五、喉頭緊引法。この検査は頚部を極端に後ろにそらせることでおこなう。そうすることによって胸骨柄部および前胸部を打診すると清音を呈していたものが、次第に濁音に近くなる。この現象は、健康な者および肺の疾患には陽性であるが、喘息患者だけはその発作時および間歇時のいずれにおいても常に陽性である。したがって、これによって喘息と他の類似の痙攣性疾患とを鑑別することができる。
この喉頭緊急法は、迷走神経の気管支収縮神経を刺激し、気管支の収縮を引き起こすものであるが、喘息の場合は、気管支筋の張力が減弱しているため、迷走神経の刺激に対応できない。
六、喘息発作の現象は痙攣麻痺の説を示す。
つまり、肺は急性肺気腫の状態であり、呼息的呼吸困難を呈し、適当な療法によって痙攣が緩解してしまうと、すぐに収縮反射をおこして呼吸が楽になる。
{療法}
一、C4、5突起を叩打することによって多くは発作をとめることができる。ただししばしば繰り返す。
二、T3、4脇を圧迫して、迷走神経の張力を減弱させるとラ音は速やかに消失し、呼吸が楽になる。
以上の打療法または圧迫法を施しても、なんら自覚症状に変化が出ない場合は気管支喘息ではない。
三、反射的にくる喘息であるにもかかわらず、鼻科その他の専門の手術を受けて治療した例はよくあるわけだが、これらは気管支筋を強くするものではないから、ほかの刺激によって再発しないというものではない。
四、塩化アドレナリンは肺の収縮反射を起こすのでその始めは顕著に反応する。しかし注射によって効果があれば、肺打診音が変化するのがわかる。
五、呼吸運動の一方法として蠟燭の光を吹き消させる指導をする。毎日2回まで、その距離を次第に遠くして試みさせる。はじめはかえって喘息の発作を起こさせてしまうことがあるが、しだいにこれは乗り越えられる。なおときとして発作がでなくなることもある。
また一方で水を入れた二つの瓶(図参照)をガラス管で連続し、一方の瓶から他方の瓶に吹き出させる。
六、迷走神経の緊張力亢進に因るものは、これを減弱させるために身体を前屈、右手を支柱に支え、左手を助手または家族のものに強く一方に緊引させること。
七、近時喘息の本体は気管資筋痙攣および分泌神経病である。つまり一種の蕁麻疹が気管支粘膜に発生することによるという説に基づきヤックリコプがカルシウムイオンは神経の興奮を制限することを発表して以来、クロールカルシウム液の注射を常用するものもある。
八、ワイスは脳下垂体エキスを用いて喘息の発作を鎮静し、しかも喘息的雑音を減却したとのことである。