二 迷走神経の張力を減弱させる方法
迷走神経の張力を減弱させるのに下の二種類の方法がある。
①圧迫器でT3およびT4棘突起間の両側を圧迫する。
②両側耳後の圧迫。
上の①の方法で以下のような現象をきたす。
イ、心臓、大動脈、肺、胃、肝、脾および腸の張力を減弱する。
ロ、肺、胃、心臓、大動脈、脾および腸での反射作用が消失する。
ハ、瞳孔が散大する。
二、環状甲状部の拡大。
ホ、咽頭の知覚鈍麻をおこす。
②の耳後、つまり乳様突起の圧迫は咽頭の知覚を鈍麻し、その炎症に対しては嚥下時に疼痛を緩解するものであるということはミリガンおよびビホーン氏の唱えるところであるが、T3、T4間の圧迫が優れているにこしたことはない。まさに咽頭の炎症または食道痙攣などによる嚥下困難はこれでいちじるしく容易になる。またこの理によって健康体において喉頭鏡検査または食道カテーテル挿入に際して①を施してみること12分間になるときは、知覚鈍麻のため非常に使いやすい。しかし一時的なものなので必要に応じて反復しないわけにはいかない。
なおT3、T4間の圧迫により迷走神経の張力を減弱するときは内臓が拡張するものであり、動脈瘤のようなものはC7側圧迫で縮小し、T3、T4間側圧迫によって拡大する。そして拡張は大動脈の拡張中枢であるT10を刺激するよりも大である。
この方法を試みるにあたり疾病の種類によってその症候が速やかに消散することがある。あるいは時日を要することがあるといえども、もし症候になんらかの変化をも認められない場合は迷走神経はその症候と関係ないものであると考えなければならない。
圧迫法はとくに練習を要するものであるから、まだ熟練していないときは打療法を試してみること。とはいえ治療時間が長過ぎるときは却って反射機能を疲労させてしまうので注意が必要である。
各種方法による肺の下縁昇騰を対照すると以下のようになる。
打療 | 2.3cm |
圧迫 | 1.6cm |
正弦波電流(速) | 1.6cm |
正弦波電流(緩) | 1.6cm |
高周波電流 | 1.6cm |
上のどの方法を選んでも肺下縁の下垂または昇騰を標準として最良の方法を用いること。
患者が自宅において便利な方法は、「頚筋伸展法」である。心臓の疾病、または迷走神経亢進を必要とする疾病には、毎日20回までを2、3回反復すること。