〔心臓機能の検査法〕
精密に心臓の機能を検査しようとすると、次の方法が必要になる。
1、脈拍数による検査法
心臓に疾患のあるものは、健者にくらべて運動や身体の位置の変動により脈拍が変化しやすい。つまり健者は立位から横臥位に体位を変換すると、脈拍数が10ないし12の現象をみる程度だけれども、心筋の疾病があるとその差は漸次減少し、甚だしいものにおいてはかえって横臥位で心拍数が増加する場合もある。
2、血圧による検査法
血圧計を用いて測計する。健康な心臓は筋肉を運動させると血圧が上昇する、しかし心臓機能不全であれば反対に筋肉運動によって下降する。
3、カッツェンスタイン氏法
横臥位で血圧と脈拍をみて、ついで鼠蹊靭帯部で両側の股動脈を両手の中指で圧迫し血行を止めてしまうと、健康な心臓では血圧は5ないし15曻騰する。脈拍の性質においては異常ないか、あるいは減少する。しかしその圧迫を解放するとしだいに性状に復するのが普通である。しかし衰弱した心臓は上の試験法を行うと、血圧が上がらないだけでなく、衰弱の烈しい場合にはかえって血圧が下降することもある。
4、心臓反者による検査法
血圧を計測してのち、打診槌や打診板でC7を強打し、ふたたび直ちに血圧を測ってみると、健全な心筋では血圧には変化がないか、もしくは昇騰するが、心筋が健全でない場合は血圧はかえって下降するものであって、その昇騰または下降は心筋の張力に比例するものである。
心臓部叩打により心臓反射を喚起した前後の血圧比較
前 130mm 後 140mm 心筋すこぶる強健
前 135mm 後 138mm 心筋健全
前 190mm 後 155mm 心筋機能不全
(注意)ショットの心臓病治療法が効果を上げているのは、エブラム心臓反射作用によるものであって、心臓部を乾いた手ぬぐいで摩擦するのも同じように心臓に強い収縮をおこすからであって、浴場における塩などが皮膚に及ぼす作用と同じ理屈である。
心臓の反射作用を身体各部で試みてみると、もっとも顕著な効果を示したのはC7叩打であった。これをおこなう適当な打療器がないときは、打診槌か打診版でやるとよい。
打療の時間は自覚症状またはその結果によって決定すべきであるが、刺激の反射現象が長く持続してしまうと心筋を疲労させてしまうので、はじめは短時間に間歇的に試してみること。
実験上、心臓衰弱または心臓肥大にはほかの療法よりも脊椎打療法が最短で最良の効果を上げている。
心臓病を患っている発作的呼吸困難とその他心臓衰弱症の場合には、打療法によって速やかに自覚症状が緩解されてゆく。しかし長い効果を得るためには長期間の治療を継続しなければならない。
第21図はC7叩打によって肥大した心臓が収縮したのを示している。しかし自覚症状は反射作用の継続時間に比例する。もし打療によって何も反射作用をおこさない場合は、すでに治療の時期を逃したのである。
附)心臓性喘息
心臓からくる喘息または発作的にくる心臓衰弱の症候は、C7叩打によって速効するので、家庭でこれができるように練習させること。
附)心臓性神経衰弱症
心筋衰弱によって神経衰弱の症候を呈し、仕事の後の倦怠、ちょっとした運動にも呼吸困難をおぼえ、さらに消化不良を訴え、他覚的には心室の拡張、心音微弱、脈拍の不整、または結滞をきたす。これらは打療法により速やかに軽快、全治するものである。