第3例
吉◯某 49歳
既往症、23年前に梅毒にかかり一昨年の10月頃はじめて胸部に違和感をおぼえ、ときどき鈍痛がある。動脈瘤であるとの診断を受ける。局部に注射療法を受けたけれども効果なく、むなしく退院。寿命は天に任せるよりないということになっていた。
現症状。自覚症として右胸部の前後および右手に波及する疼痛があって、右の肩甲部にはとくに圧痛があって、枕をその間に挟まないと仰向けに寝ることもできない。歩行に際しては胸部苦悶、呼吸困難および疼痛のため、脚を前に出す勇気も出ないと訴える。
視診では右胸R3以下胸骨縁に接して手掌大のは駆動する部分がある。胸壁があって膨隆しない。打診上は濁音があるが聴診では雑音がない。静脈は怒張している。
診断。上行大動脈瘤。
療法。打療法一週めで濁音の境界および拍動がおおきく減った。自覚症としてはわずかに肩甲美に圧痛点があるのみ。胸部の違和感や歩行時の苦痛は消失し、完全に治ったようだとのこと。
大正5年6月